空気公団 /山崎ゆかり

空気公団作品集

過去に発売された楽曲13曲と未発表の1曲。
全曲新たにレコーディングした空気公団10周年ベスト的記念盤。

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ごあいさつ

活動10周年の今だから出来る、何か記念盤が作れたらいいと考えていました。もっと空気公団の音楽を感じてもらえて、私達にとって意味のある記念盤。過去作品数曲をそのままアルバムにおさめることも考えましたが、過去作品全てが廃盤になっているわけでもなく、そしてそれぞれの曲がそのアルバムにふさわしいポジションを持っていることもあり、寄せ集める形の記念盤には私達にとっての意味を見つけられませんでした。  今回の空気公団作品集は1曲を除き、過去に発売された曲で構成され、全曲に別の服を着せました。10歳の空気公団にぴったりの2着目の服。空気公団を知らない方にも知っている方にも楽しめる、記念的音源。沢山の方々に聴いて頂ければと思います。 (空気公団 山崎ゆかり 戸川由幸 窪田渡)

空気公団 New Album「空気公団作品集」
2007年12月19日発売 全14曲


1. 旅をしませんか (スタジオライブ)
2. 季節の風達
3. 休日(インストゥルメンタル)
4. 別れ(スタジオライブ)
5. 白
6. あかさたな
7. うしろまえ公園
8. 紛れて誰を言え
9. 自転車バイク
10. 今朝少しそう思った
11. ハナノカゲ(ライブ)
12. それはまるで
13. 思い出俄爛道
14. 窓辺

□演奏者
山崎ゆかり ボーカル他
戸川由幸 ベース他
窪田 渡 オルガン他
山口とも パーカッション、ドラムス
良原リエ(from trico!) アコーディオン、コーラス
石坂義晴(from advantage Lucy) アコースティックギター、エレクトリックギター、コーラス
奥田健介(from NONA REEVES) アコースティックギター、エレクトリックギター
笹井享介 ドラムス
青木慶則(from HARCO) ドラムス
太田宏司(from 曽我部恵一BAND)ドラムス
斉藤 寛(from チャンチキトルネエド) フルート
井上梨江(from チャンチキトルネエド) クラリネット
権藤知彦(from anonymass) ユーフォニウム
ミト  (from clambon) ベース
林立夫 ドラムス

produced by KUKIKODAN
All songs written and composed by YUKARI YAMAZAKI
Arranged by KUKIKODAN and “sakuhinsyu” group

recording and mixing engineers 中村文俊&戸川由幸
mastering engineer 小泉由香

品番:BNCL-30 価格:¥3,000(税込)
発売元:バッドニュース音楽出版
販売元:ビクターエンターテインメント

■問:Bad News Records 03-3477-2500

◎アレンジ解説 text 窪田 渡

1 旅をしませんか
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『スタジオライブ』と銘打っているようにともさんのスタジオに機材一式を持ち込んでの一発録り。
音像は2007年2月〜3月に行われた『おくりものツアー』に近い。ここで良原リエさんに初めて
アコーディオンとコーラスで参加してもらった。事前に細かい打ち合わせもなく演奏してもらう。
音決めの分も含めて2回程度で良い演奏が録れた。歌・楽器ともに差し替えナシ、とても鮮度の高い
演奏になっている。ジャムセッション的に進めて行くやり方は、今までの空気公団に無かった
アプローチではなかろうか。ここ何年かライブツアーで必ずやっていた曲でもあるし、
ライブをやった経験があった上で成立する世界。ドラムの山口ともさんとギターの石坂義晴さんお二人の持つ
『安心感』がそんな方法での録音を大きく支えてくれたと思う。

2 季節の風達
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いわゆるフォーリズムにオルガンとリードギターが加わっただけの編成。シンプルな編成ならではの
奥行き感がある。空気公団には16ビートのリズムパターンが多いが、この曲はそのスタイルの
一つの完成形に思える。ドラムは林立夫さん。私個人としても幼少の頃からのアイドルなので、
このように録音を一緒にするというのはとても不思議な気分。1音1音が宝物のようなテイク。
ギターは奥田健介さん。なんとギターソロは一発でOK。キーボーディストとしての顔を持つ彼、
コードの解釈はさすが。ダイナミクスの感覚も素晴らしく、曲に躍動感を与えている。
演奏した人間の、曲に対するベクトルが1方向に向いていると、余計なものが無くなるという、
好例。

3 休日
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インスト曲。しかもリードはベース。最初に山崎さんと戸川君の作ったラフスケッチはなんと
ウェスモンゴメリーみたいな世界だった。聞いてびっくり。個人的にCTIは好きなのだが、
奥の深い世界、生半可ではできない世界なので無駄に追うのはやめた。
ここで参加してくれたのはクラムボンのミトさんでリードベースを担当。この演奏も音決めも含めて
3テイク程でOKだった。ミトさんらしさが全面に出ている演奏なのだが、空気公団の長年の住人のように
馴染んでいる。ドラムは笹井享介さん。絶妙なチューニングで演奏してくれた。
ドラムは少しくすんだ明るい色合いで、ミトさんの音色とうまく対をなしている。
結果的にこの曲は「融」収録の「田中さん日曜日ダンス」の延長線上におさまった気がする。

4 別れ
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いくつかある山崎さんの作風の一つに「欧州映画風」と言える作風があると思うのだが、
この曲はその代表かと思う。原曲では一部に見えていたスウィング感を今回は全面に出している。
曲の前半〜後半にかけてともさんが作り出すダイナミクスは絶品。
途中で出て来るユーフォニウムはanonymassの権藤知彦さん。フレーズを考えた時、音域を
考慮したはずなのだが、なんと1音だけ楽器の限界を超える音が…。
にもかかわらず自らチャレンジしていただき無事録音は終えられた。とても感謝。初のユーフォニウム体験
だったが、この楽器ともっと早く出会いたかった。素朴で豊かな音色は他にあまり見ない。
途中のシンセストリングスは一本ずつバイオリンやチェロの音を作って録音した。
シミュレートしつつも、シンセならではの世界を作るのはやはり楽しい。

5 白
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この曲は「リ・アレンジ」というより「リ・コンポーズ」の世界に近い。ベーシックは山崎さんが作った。
ドラムのパターンも山崎さんで作曲者ならではの発想と思う。
ドラムで参加したHARCOはきちんと譜面にパターンを書いてスタジオに来た。やはり歌い手、作曲家として
活動されている彼なので、ドラムの演奏だけでも景色が見える。
空気公団はイメージとして「明るく、穏やか」な印象を持たれるが、実際はそのような曲が少ない。
この曲も決してそうではないのだが、そのような曲には必ずどこか飄々とした「ユーモア」がある。
結果、全体的に「明るく、穏やか」な印象を与えるのではないかと、この曲が完成した時に考えた。
そんな意味でこれは代表曲なのかも知れない。

6 あかさたな
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エレクトロ・ポップ。もともと2003年発売の「こども」に収録予定だったとか。
私が最初に聞いたのは今から2年程前。エレポップのアレンジですべて完成していた。
今回そのままの形で収録予定だったが、データのファイルがどこを探しても見つからず、
結局最初から作りなおした。主にドラムの打ち込みは戸川君が担当。
使用機材のせいか、全体的にデジタルシンセの力強い音になっている。
最初聞いた印象としてコードのボイシングがどこかAORを思わせる物だった。キーボードのペダルノートが
この曲の鍵。ギター入れの際、「体育会系な世界」を躊躇せずに出した方が良いのではと奥田健介さんから
提案があり、実際すこしマッチョなギターとなった。曲の幅を広げてくれたと思う。

7 うしろまえ公園
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原曲と違い3拍子になった。これも「リ・コンポーズ」の世界でモダンな響きのピアノが印象的。
曲の始めの方、戸川君はスラップベースで山口ともさんはコンガを叩いており、リズム隊はP-Funkのような
楽器の編成になっている。和音が独特なため曲が緊張感を含んでいるので、アレンジの方向性としては
それらを失わない事、というかそれを全面に出す事を主眼に置いた。結果、乾いた呪術的な世界になり、
空気公団として珍しい物となった。一番この曲が原曲と変わったと思うが、ただ、それが持つ意味合いは
原曲と変わっていないと思う。

8 紛れて誰を言え
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この曲で聴こえる木管楽器はチャンチキトルネエド・斉藤寛さんのフルートと同じく井上梨江さんのクラリネット。
木管楽器はいつも響きの美しさに惹かれる。音色もとても映像的だ。この曲のコード進行には独特の色気があるので
木管の二つの楽器はより魅力的に響いたと思う。ピアノのアプローチも同様でコード感を主軸に置いたフレージング。
一方でこの曲のようなコード進行を歪んだ轟音のギターで聴く事はあまりない。テンションコードは歪んだ音で弾くと
響かなくのるのでもっともな話なのだが、その意味でこの曲の奥田健介さんは他であまり聞くことの無い世界を演奏している。
ドラムのHARCOもロック色の強い演奏しており、一つの曲に二つの体温が存在している。

9 自転車バイク
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石坂義晴さんのカッティングとアルペジオが両方とも冴えている。まさに真骨頂。ドラムは山口ともさんで、
叩いているセットはバスドラがゴミ箱。サンプラーで加工したかのようなバスドラの音なので、
この曲調にとてもハマっている。このテンポ感は空気公団には珍しい。
2か月程の録音でこの曲の石坂義晴さんの録音がゲストプレーヤーの参加した最後の録音となった。
その録音中、最近ずっとアーティスト写真を撮影してもらっているTAKAMURADAISUKEさんがフワリスタジオへ
料理をしにやってきた。玄人裸足のパスタが完成し、一同びっくり。豪華な打ち上げとなった。

10 今朝少しそう思った
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ドラムの太田宏司さん参加の曲。大変馴染み深い演奏者だ。
バンドにとってドラマーは音の世界観を作る上で一番重要な人物。
太田宏司さんが参加すると、「あの当時」の雰囲気がすぐに蘇る。その意味で彼は空気公団のフォーマットを作った
一員なのだと思う。今回も楽しんで参加してくれた。
原曲と比べて基本的な編成は変わらないが、印象が大きく違って聴こえるのはやはりエレキギターで、
曲の後半をリードして行く様は圧巻。戸川君のプレイ。全体的に原曲の演奏と比べて重く、深く、陰鬱になっているが
この曲が持つ淡々とした表情には変わりはない。
空気公団の「核」を垣間見れる曲だ。

11 ハナノカゲ
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『おくりものツアー』の東京公演からのテイク。
録音が進むにつれて何かもう1曲毛色の違うものを入れたくなった。このライブはPAアウトの同録がなく
カメラの音声しかなかったのだが、演奏、雰囲気、曲が良かったので収録することにした。
『もし空気公団がライブバンドだったら』という『IF』が楽しめる1曲。石坂義晴さんの爆音ギターが格好良い。
気分だけブッカー・T・ジョーンズのオルガンは演奏していて楽しかった。
ライブの時はなによりもアンサンブルが大切で、歌を損なわないように皆演奏レベルには細心の注意を払っている。
またダイナミクスもとても気にする所だ。しかしそれはライブに限った話ではなく録音も全く同じで、
そんなライブの経験は今回のアルバム制作にとても役立っている。

12 それはまるで
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曲を引っ張るのは山崎さんのピアノ。ソングライターが弾く楽器はとても太刀打ち出来ない雰囲気がある。
演奏のニュアンスが歌に近いからであろうか。この曲のドラムは笹井享介さん。モノトーンで少しザラっとした
上品なスネアの音は彼ならではの世界。ギターの奥田健介さんの音選びも美しい。この曲も「欧州映画風」の作風で、
曲の世界はとても映像的。だからなのか、演奏者はみな見ている映像をなぞるように楽器を弾いているようだ。
それも空気公団の特徴か。途中のシンセサイザーはメーカーの違うシンセを何個か重ねている。

13 思い出俄爛道
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ドラムは林立夫さん。1音1音がとても深い。この演奏ももちろん宝物だ。林さん曰くこの曲は「譜面の見えない音楽」
とのこと。自分達が興味を持って作って来たことを一言でいうならばそうなのかも知れない。
とても学ぶ事の多いセッションだった。基本的に2コードのこの曲、音数、音符の数共にすべてがとても少ない。
体温の低い緊張感の高い世界に聴こえる。

14 窓辺
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打ち込みのドラムサウンドが印象的。淡々とミニマルに曲が進む中で少しずつ演奏が変化して行く。
原曲にくらべてテンポは遅いが、歌メロを考えた場合こちらの方が歌いやすいのでは、と思う。鍵盤の割り振りは
曲の部分によって山崎さん、私と入れ替わる。メインのオルガンは山崎さん。途中のテンションの入れ方が独特。
空気公団の音楽は映像を喚起する力が強いが、この曲は特に力強い。主に楽器の抜き差しによる起伏が映像的なのかも
しれない。その意味でこの曲は前作『おくりもの』の『おはよう今日の日』にアレンジのアプローチが近い。
(アレンジ解説 text 窪田渡)